の御馳走《ごちそう》を致さんと存じ候処《そろところ》、生憎《あいにく》材料払底の為《た》め其意を果さず、遺憾《いかん》千万に存候《ぞんじそろ》。……」
そろそろ例の通りになって来たと主人は無言で微笑する。
「明日は某男爵の歌留多会《かるたかい》、明後日は審美学協会の新年宴会、其明日は鳥部教授歓迎会、其又明日は……」
うるさいなと、主人は読みとばす。
「右の如く謡曲会、俳句会、短歌会、新体詩会等、会の連発にて当分の間は、のべつ幕無しに出勤致し候《そろ》為め、不得已《やむをえず》賀状を以て拝趨《はいすう》の礼に易《か》え候段《そろだん》不悪《あしからず》御宥恕《ごゆうじょ》被下度候《くだされたくそろ》。……」
別段くるにも及ばんさと、主人は手紙に返事をする。
「今度御光来の節は久し振りにて晩餐でも供し度《たき》心得に御座|候《そろ》。寒厨《かんちゅう》何の珍味も無之候《これなくそうら》えども、せめてはトチメンボ でもと只今より心掛|居候《おりそろ》。……」
まだトチメンボ を振り廻している。失敬なと主人はちょっとむっとする。
「然《しか》しトチメンボ は近頃材料払底の為め、ことに依ると間に合い兼候《かねそろ》も計りがたきにつき、其節は孔雀《くじゃく》の舌《した》でも御風味に入れ可申候《もうすべくそろ》。……」
両天秤《りょうてんびん》をかけたなと主人は、あとが読みたくなる。
「御承知の通り孔雀一羽につき、舌肉の分量は小指の半《なか》ばにも足らぬ程故|健啖《けんたん》なる大兄の胃嚢《いぶくろ》を充《み》たす為には……」
うそをつけと主人は打ち遣《や》ったようにいう。
「是非共二三十羽の孔雀を捕獲致さざる可《べか》らずと存候《ぞんじそろ》。然る所孔雀は動物園、浅草花屋敷等には、ちらほら見受け候えども、普通の鳥屋|抔《など》には一向《いっこう》見当り不申《もうさず》、苦心《くしん》此事《このこと》に御座|候《そろ》。……」
独りで勝手に苦心しているのじゃないかと主人は毫《ごう》も感謝の意を表しない。
「此孔雀の舌の料理は往昔《おうせき》羅馬《ロ