ソアはがっかりして立ったまま、軍団が行動を起こすのを見つめた。到着した時と同じ速さで去って行った。
最後にソアが見たのは、後部の馬車に座っている兄たちだった。とがめるような目で嘲りながらこちらを見ていた。ソアの目の前で、馬車で連れて行かれるのだった。ここから、より良い人生へと。
心の中で、ソアは死んでしまいたい気持ちだった。
彼を包んでいた高揚した気持ちが引いていくのと同時に、村人たちはそれぞれの家へ帰って行った。
「お前はどれほどばかなことをしたかわかっているのか?」父がソアの肩をつかみながらきつく言った。「兄さんたちのチャンスをつぶすことになったかも知れないのをわかっているか?」
ソアは父親の手を乱暴に振りほどいた。父は再び手を伸ばし、ソアの顔を手の甲で叩いた。
刺すような痛みを感じ、父をにらみ返した。生まれて初めて、父に殴り返したい気持ちが自分の中に芽生えたが、それを抑えた。
「羊をつかまえて戻しなさい。今すぐに!戻っても食事があると思うな。今晩は夕食抜きだ。自分のしたことをよく考えてみなさい。」
「もう戻らないかも知れないさ!」ソアはそう叫ぶと丘に向かって家を出て行った。
「ソア!」父が叫ぶのを村人たちが立ち止まって見ていた。
ソアは早足で歩き、そして走り始めた。ここからできるだけ遠くへ行ってしまいたかった。夢がすべて打ち砕かれ、泣いて、自分の涙が頬を伝っていることにさえ気づいていなかった。
第二章
ソアは、怒りではらわたが煮えくり返る思いを抱えながら丘を何時間もさまよった後、選んだ丘の上に腰をおろした。脚の上で腕を組み、地平線を眺めた。馬車が消えていくのを、時間を経てもなお残る雲状のほこりを見つめた。
もう軍団が村にやってくることはないだろう。今となっては、自分はこの先何年も次のチャンスを待ちながらこの村にとどまる運命にある。たとえそれが二度とやってこないとしても。もし父が許してくれさえしたら。これからは家で父と二人だけだ。父は自分にありったけの怒りをぶつけてくるだろう。自分はこれからも父親のしもべであり続けるだろう。そして年月が経ち、自分もやがて父のようになるのだろう。兄たちが栄光と名声を手に入れる一方で、ここに埋もれ、つまらない日々を送る。血管が屈辱で焼けるようだ。これは自分が送るべき人生ではないということが彼にはわかっていた。
ソアは自分に何ができるか、どうしたら運命を変えられるか知恵を絞って考えたが、何も浮かばなかった。これが、人生が自分に配ったカードなのだ。
数時間座ったままだったが、やがて落胆した様子で立ち上がり、歩き慣れた丘を横切りながらずっと高く登り始めた。否応なく、羊の群れのいる高い丘のほうへと漂うようように戻って行った。登っていく時に一番目の太陽は沈み、二番目の太陽が最も高い位置につき、緑がかった色合いを投げかけていた。ソアは時間をかけてゆっくり歩きながら、特に考えもなく、長年使って革のグリップがすり切れた投石具を腰から外した。腰にくくりつけてある袋に手を伸ばし、集めた石を手で探った。良い小川から拾ってきた、滑らかな石で、鳥や、また時にはねずみに当てることもあった。長年の間に染み付いた習慣だ。最初は何にも当たらなかったが、そのうち動く標的をしとめたことも一度あった。それからソアのねらいは確実になった。今では投石はソアの一部となっていた。それに怒りをいくらか解消するのに役立った。兄たちは丸太に剣を突き通すことができるだろうが、石で飛ぶ鳥を落とすことはできない。