Морган Райс

ドラゴンの運命


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      全員が振り向き、やっと、家来たちに囲まれて入口のそばに立っている大公の存在に気付いた。皆が帽子を取り、お辞儀をした。

      「私が話を終えるまでに店を空にしないと」大公が告げた。「全員を直ちに投獄する」

      店内が狂乱状態になり、男たち全員が店を明け渡す大公のそばを通り過ぎ、正面のドアから外に出ようとした。飲みかけのエールの瓶もそのままだった。

      「お前もだ」ブラントはバーテンダーに向かってそう言うと、短剣を下げ、彼の髪をつかんでドアのほうへ押しやった。

      ほんの少し前まで騒々しかった店内が、今はエレック、ブラント、大公と数十名の側近たちを除いて誰もいなくなり、静かになった。背後で音を立てて扉を閉めた。

      エレックは床に座って今もぼう然と鼻の血をぬぐっている宿屋の主人に向き直った。 エレックは彼のシャツをつかみ、両手で彼を立ち上がらせて、空いたベンチの一つに座らせた。

      「今夜一晩の商売をあんたは台無しにしたな。」主人は哀れな声を出した。「このつけは払ってもらうよ」

      大公が歩み出て彼を手の甲で叩いた。

      「この方に手を出そうものなら、お前を死刑に処することもできるのだぞ。」大公が厳しく言った。「この方がどなたか存じ上げないのか?国王の最高の騎士、シルバーのチャンピオン、エレック様だぞ。その気になれば、この方がお前を今この場で殺すこともできる」

      宿屋の主人はエレックを見上げ、初めて本当の恐怖が彼の顔をよぎった。座ったまま震えそうだった。

      「まったく存じ上げませんでした。あなた様がおっしゃいませんでしたので」

      「彼女はどこだ?」エレックがもどかしげに尋ねた。

      「奥で台所の掃除をしております。あの娘とお会いになりたいっていうのは一体どういうことなんで?何かあなた様のものを盗んだりしたんでしょうか?あの娘はただの年季奉公の召使ですが」

      エレックは短剣を抜き、男の喉に突き付けた。

      「彼女を今度召使と呼んだら」エレックが警告する。「私がお前の喉をかき切るぞ。わかったな?」男の皮膚に刃を当てながらエレックがきつく言った。

      男は目に涙をためて、ゆっくりと頷いた。

      「彼女をここに連れて来なさい。急いで」エレックはそう命じ、彼を引っ張って立ち上がらせ、体を押した。男は店内へ、そして奥の扉へと飛ばされた。

      宿屋の主人が行ってしまうと、扉の向こう側から鍋のぶつかる音や抑えた怒鳴り声が聞こえた。その後すぐに扉が開き、数人の女性たちが出てきた。皆、台所の油だらけのぼろ布のドレスやスモックを身に着け、帽子をかぶっている。 六十代の年配の女性が三人いた。エレックは、自分が誰のことを言っているのかこの男はわかっているのだろうか、といぶかった。

      その時、彼女が出てきた。エレックは心臓が止まりそうだった。

      息ができないほどだった。この女性だ。

      油のしみがついたエプロンを着け、目を上げるのが恥ずかしい様子で顔を下に向けたままだ。髪は結んで布で覆っている。頬には泥がこびりついているが、それでもエレックは彼女にぞっこんだった。皮膚は若々しく完璧な美しさで、頬が高く、顎も彫刻のようだ。鼻にはそばかすがあり、唇が厚い。額は広く、威厳がある。そして美しいブロンドの髪が帽子からあふれ出ていた。