「承諾してくださいますか?」エレックが尋ねた。
店内が静まり返った。
「ご主人様」彼女が静かに言った。「あなた様は私が誰なのか、どこから来たのか、何もご存じありません。そして、私はそうしたことをお話しできないのです」
エレックが不思議そうな顔をして見つめ返した。
「なぜ話せないのですか?」
「ここへ到着してから誰にも話しておりません。私は誓いを立てたのです」
「それは一体なぜなのですか?」エレックは興味をそそられ、問いただした。
アリステアは黙って下を見ているだけだった。
「それは本当です」女中の一人が口を差し挟んだ。「この人は自分が誰なのか話したことがないんですよ。なぜここにいるのかも。話すのを拒むんです。何年も聞こうとしているんですがね」
エレックは非常に不可解な気がした。だが彼女の神秘性が一層深まっただけだった。
「今、誰だかわからないのであれば、知らなくてよいです」エレックが言った。「私はあなたの誓いを尊重します。ですが、そのことで私の気持ちが変わることはありません。あなたが誰であろうと、このトーナメントに勝った時は私はあなたを選びます。王国中のすべての女性のうちからあなたをです。もう一度伺います。受けてくださいますか?」
アリステアは床に目を落としたままだった。そしてエレックの目の前で、彼女の頬を涙が伝った。
突然、アリステアは振り向いて部屋から走って出て行き、背後の扉を閉めた。
エレックは他の者たちともども、驚きに言葉をなくして立ちすくんだ。彼女の反応をどう解釈したらよいのかわからなかった。
「これであなた様も私も時間を無駄にしたことがわかりましたね。」宿屋の主人が言った。「あの娘はノーと言った。ですからもう出て行ってくださいよ」
エレックはしかめっ面を返した。
「ノーと言ったわけじゃない」ブラントが口をはさんだ。「返事をしなかっただけだ」
「時間をかける権利がある」エレックは彼女を弁護した。「考えるべきことはたくさんあるのだから。私のことも知らないわけだし」
エレックは何をすべきか、その場で熟考した。
「私は今晩ここに泊まることにする。」エレックは最終的にそう言った。「ここに部屋を取ってくれ。彼女の部屋から離れた廊下の奥に。朝になったら、トーナメント前にもう一度尋ねる。もし承諾してくれれば、そして私が勝てば、彼女は私の花嫁になる。もしそうなれば、奉公人の身請けをする。彼女は私と共にここを離れることになろう」
宿屋の主人が自分の宿にエレックを泊めたくないのは明らかだったが、何も言おうとはしなかった。振り返って扉を後ろ手に閉め、急ぎ足で出て行った。
「ここにお泊りになるというのは確かなのですか?」大公が尋ねた。「私どもと共に城に戻りましょう」
エレックは重々しく頷き返した。